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井上、いざという時の金将になる

2009/02/28

 小学生のころ、よく父親と将棋を指した。酒を飲まない父は将棋が趣味だった。そんな父には負けてばかりだったが、ほんの数回だけ勝てたことがあった。それは最初に持ち駒をもらった時だ。「強い相手に勝とうと思ったら持ち駒を大事にすることだ」。父の言葉は今も覚えている。「オレは自分を将棋の駒だと思っている」-。そう言ったのは中日のベテラン井上だった。プロ20年目のキャンプを2軍読谷球場で過ごしている。南へ約10キロ離れた北谷球場では新人の野本を始め、藤井、中川、中村一といった若手外野手たちが開幕1軍をかけてしのぎを削っている。一方、37歳の井上はさとうきび畑に囲まれたのどかな球場で1人、黙々と汗を流す。紅白戦でも練習試合にも呼ばれていない。正直、現状では井上が1軍のどのポジションで起用されるのか想像がつかない。ただ、井上はそんな現状を受け入れた上で自分の存在意義を見いだしていた。

「将棋を指していて自分がピンチになった時、こたつの布団をめくったら金将が転がり出てきた。あれはうれしいよ。そんな経験ないか? オレは今年、自分を将棋の金将だと思っているんだ。チームが困った時とか、駒がなくなった時に『監督、オレがここにいますよ』ってさ。その時を待つしかないよ」。

読谷球場で井上の居残りフリー打撃を見た。打球の速さ、力強さはいまだ若手の追随を許さない。強肩も健在だ。その実力が「金将」であることは確かだろう。ペナントレースは144試合の長い、長い戦い。オレ竜が矢折れ、刀尽きた時、将棋盤の上にはなかった「金将」が意味を持つ。井上はそう信じて、読谷の日々を過ごしている。(日刊スポーツ

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